モンジュイックの丘(Montjuïc)とはどんなところか

バルセロナの南西部に位置するモンジュイックの丘は、バルセロナ南西に位置する標高約177mの丘で、中世にはMontdelsJueusと呼ばれていたとされる。名称はユダヤ人の丘を意味し、かつて丘にユダヤ人墓地が存在した歴史に由来すると考えられている。古代から軍事上重要な高地と見なされ、防衛拠点として要塞が築かれ、都市を監視する役割を担ってきた。丘の石材は旧市街の建築に使われ、都市形成そのものを支えた資源でもあった。

モンジュイックの丘には、休憩できる小広場や庭園空間は20以上ある。
モンジュイックの丘には、休憩できる小広場や庭園空間は20以上ある。
1800年代のモンジュイックの丘
1800年代のモンジュイックの丘。

20世紀に入ると役割が変化し、1929年の万国博覧会の会場となり、丘一帯が展示都市として整備された。夜間照明や噴水演出は当時の欧州で先進的と評されたという。さらに1992年のバルセロナオリンピックでは主要会場が置かれ、世界的注目を集める舞台となった。近年の芸術展では、この丘の景観が歴史的衝突や記憶を象徴する場所として解釈された例もある。軍事拠点から国際イベント会場、公共空間へと役割を変えてきた点に、この丘の特徴が表れている。

ケーブルカーとロープウェイ/フニクラ・デ・モンジュイック(Far de Montjuïc)

バルセロナの街を一望できるモンジュイックの丘へは、地下鉄とケーブルカー、さらにロープウェイを乗り継いで向かうルートが一般的となっている。まずは地下鉄L2号線かL3号線のパラレル駅を目指すとよい。この駅の改札内には、フニクラと呼ばれる地上を走るケーブルカーの乗り場が直結している。

フニクラは急勾配のトンネルを一気に駆け上がる乗り物で、地下鉄と同じ切符や交通カードでそのまま乗車できる点が大きな特徴といえる。乗車時間は約2分ほどで、あっという間に丘の中腹にあるパルク・ダ・モンジュイック駅に到着する。

ここからさらに高い場所へ移動するには、モンジュイック・ロープウェイに乗り換えるのが旅の楽しみを広げてくれる。このロープウェイは8人乗りのキャビンで空を進むため、バルセロナの市街地やサグラダ・ファミリア、地中海といった絶景を独り占めできる。空中散歩を楽しみながら、終点のモンジュイック城のすぐそばまで運んでくれる。

バルセロナの街を一望できるモンジュイックの丘へは、地下鉄とケーブルカー、さらにロープウェイを乗り継いで向かうルートが一般的となっている

もしバスの車窓から街並みを眺めたいなら、スペイン広場から出発する150番の路線バスを利用する選択肢もある。バルセロナ・サンツ駅からも近く、こちらも地下鉄などと同様の運賃で乗車できるため、予算を抑えつつ移動したい場合に適している。

複数の乗り物を組み合わせることで、目的地にたどり着くまでの時間そのものがバルセロナ観光の貴重な体験へと変わっていく。それぞれの乗り物から見える景色の違いを楽しみながら、丘の上へと続く道中を体感してみてはどうだろうか。

モンジュイック城(Castell de Montjuïc)

バルセロナの南側に位置するモンジュイック城は、海抜170メートルほどの高台に築かれた軍事施設に由来する。17世紀半ばの収穫人戦争において、わずか30日間で土台となる砦が完成した。その後、18世紀にフアン・マルティン・セルメーニョの手によって、現在見られるような星型の要塞へと大規模な改修が行われた。

モンジュイック城(Castell de Montjuïc) 紋章が刻まれた重厚な正門
紋章が刻まれた重厚な正門。跳ね橋が設置されていた形跡が残るこの入り口は、城の防衛の要であった。

この城の歴史は、バルセロナの街を守るためだけではなく、時には街を監視し、制圧するための拠点として機能してきた側面がある。特に18世紀から19世紀にかけては、バルセロナ市街地に向けて砲撃が行われた記録も残っている。20世紀に入ると、内戦期を中心に政治犯の収容所や処刑場として利用されるなど、暗い歴史の舞台となった。1940年には、カタルーニャ自治政府のプレジデントであったリュイス・コンパニスが、この城の敷地内で銃殺されている。

モンジュイック城(Castell de Montjuïc) 海を臨むテラスに設置された巨大な沿岸砲
海を臨むテラスに設置された巨大な沿岸砲。20世紀に入ってからもバルセロナ防衛のために使用されていた歴史を今に伝えている。実際の砲座と巨大な現物が要塞の構造と一体化して保存されている点が非常に貴重。近代兵器と近世の石造要塞が共存する独特の景観は、この場所が長きにわたり実戦的な拠点であった事実を物語る。

1960年代に軍事博物館として一般公開が始まった後、2007年にはバルセロナ市へ完全に移管された。現在は軍事的な役割を終え、歴史を伝える文化施設として活用されている。場内には当時の大砲が展示されているほか、周囲のテラスからはバルセロナの港や地中海を一望できる。

モンジュイック城(Castell de Montjuïc) 城郭の内部にある広大な中庭
城郭の内部にある広大な中庭。周囲を囲む建物にはアーチ状の開口部が並び、かつては兵舎や貯蔵庫として利用されていた。スペイン特有の明るい色のレンガと石材が組み合わされている。

城の周囲には堀や庭園が整備されており、歴史的な遺構を歩きながら見学できる構造になっている。軍事建築としての造形美と、バルセロナという都市が歩んできた複雑な過去の両面を知る上で、重要な場所といえる。

モンジュイック城(Castell de Montjuïc) 軍事要塞の監視塔
軍事要塞の監視塔。現在の遺構は18世紀に再建されたもので、街を一望できる戦略的な拠点としての役割を果たしてきた。石造りの堅牢な外観は典型的な近世ヨーロッパの防衛建築であり、これほど大規模な石造要塞が完全な形で山頂に残る例は珍しい。
モンジュイック城(Castell de Montjuïc) 要塞の外周を囲む深い空堀と美しく整えられた庭園
要塞の外周を囲む深い空堀と美しく整えられた庭園。かつては敵の侵入を防ぐための峻険な防御施設であった場所が、現在はカタルーニャの旗がたなびく憩いの場へと変貌を遂げている。日本では五稜郭のような星形要塞に同様の堀の構造が見られるが、垂直に近い石壁と植物による装飾の対比はヨーロッパの城塞ならではの景観。軍事的な威圧感と現代の公共空間としての調和がこの場所の価値を高めている。

カタルーニャ国立美術館(Museu Nacional d’Art de Catalunya)

1929年のバルセロナ万国博覧会に合わせて建設された国立宮殿を利用した美術館。バルセロナの南西に位置するこの建物は、スペインルネサンス様式を取り入れた壮麗な外観が特徴。カタルーニャ地方の1000年にわたる芸術を網羅しており、この地域独自の文化背景を学ぶための重要な拠点。

カタルーニャ国立美術館(Museu Nacional d'Art de Catalunya)

館内において最も重要な展示とされるのが、11世紀から13世紀のロマネスク壁画。ピレネー山脈の奥地にある小さな教会から剥離され、この美術館に移設された。サント・クリメント・デ・タウル聖堂の「全能者キリスト」をはじめとする作品群は、その保存状態の良さと表現の力強さから、世界的に高い評価を得ている。

カタルーニャ国立美術館(Museu Nacional d'Art de Catalunya)石材を削り出して制作された14世紀後半のゴシック彫刻群
石材を削り出して制作された14世紀後半のゴシック彫刻群。かつての教会のファサードを飾っていた使徒たちの立像であり、当時の緻密な彫刻技術を間近で観察できる。

ゴシック様式の祭壇画や、エル・グレコ、ディエゴ・ベラスケスといった巨匠の作品も展示。また、19世紀後半から20世紀初頭にかけてバルセロナで花開いた芸術運動、モデルニスモの作品群も見逃せない。アントニ・ガウディによる家具やラモン・カザスの絵画など、当時の市民生活や美意識を反映した多様な作品が揃っている。

カタルーニャ国立美術館(Museu Nacional d'Art de Catalunya)石材を用いた12世紀前後のロマネスク様式の柱頭彫刻とアーチ
石材を用いた12世紀前後のロマネスク様式の柱頭彫刻とアーチ。修道院の回廊の一部を移設したものであり、柱頭には聖書の場面や幾何学模様、架空の動物などが素朴なタッチで彫り込まれている。
カタルーニャ国立美術館(Museu Nacional d'Art de Catalunya)木板に油彩やテンペラで描かれた15世紀の祭壇画
木板に油彩やテンペラで描かれた15世紀の祭壇画。

館内の中央ドームや大ホールは、宮殿としての豪華な装飾が当時のまま残されている。テラスからはバルセロナの街並みを眺めることができ、観光客にとっても魅力的なスポット。カタルーニャのアイデンティティを形成する芸術に触れることができる貴重な施設。

カタルーニャ国立美術館(Museu Nacional d'Art de Catalunya)2024年に開催された企画展「スザンヌ・ヴァラドン。ある現代の叙事詩」
2024年に開催された企画展「スザンヌ・ヴァラドン。ある現代の叙事詩」。彼女自身の作品に加え、ロートレックなど同時代の作家による広告ポスターも並び、19世紀末の活気ある文化や商業美術の発展を直接的に感じ取ることができる。

ミロ美術館(Fundació Joan Miró)

バルセロナを訪れる芸術ファンの多くが足を運ぶ場所に、ジョアン・ミロ美術館がある。ここは現代美術界の巨匠であるジョアン・ミロ本人が、自身の作品を公開し、さらに未来を担う若手芸術家を支援したいという願いから1975年に開館した。彼自らが財団を設立し、膨大な数の作品を寄贈したことで、彼の芸術的遺産を保存する世界的な中心地としての役割を担っている。

建物の設計を手がけたのは、ミロの親友でもあった建築家ジョセップ・リュイス・セルト。白い壁と直線的なフォルムが特徴的なこの建築は、地中海の明るい太陽光を効率的に取り込む構造となっている。展示室を進むと、天窓から降り注ぐ自然光が作品を照らし出す光景に出会える。建物自体が現代建築の傑作として評価されており、作品と空間が一体となった鑑賞体験を提供している。

ミロ美術館(Fundació Joan Miró)
ミロ美術館(Fundació Joan Miró)

館内に収蔵されている作品は10000点を超え、油彩画だけでなく彫刻や織物、素描など多岐にわたる。特に巨大なタペストリーは、その圧倒的なスケールと独特の質感で訪れる者を圧倒する。また、屋上テラスには色彩豊かな彫刻が点在しており、バルセロナの街並みを背景にアートを楽しむことができる環境が整っている。

ミロ美術館(Fundació Joan Miró)
ミロ美術館(Fundació Joan Miró)
ミロ美術館(Fundació Joan Miró)
ミロ美術館(Fundació Joan Miró)

現代美術の研究や普及を目的とした文化拠点として、特別な展覧会やワークショップが定期的に開催されている。ジョアン・ミロの独創的な造形表現と、ジョセップ・リュイス・セルトの建築美が融合したこの空間は、スペインの豊かな芸術文化を肌で感じるために欠かせない場所となっている。

スペイン村(Poble Espanyol de Barcelona)

スペイン村(Poble Espanyol de Barcelona)は、1929年のバルセロナ万国博覧会に合わせて建設された野外建築博物館。スペイン各地にある伝統的な建築様式を一堂に集めた集落のような構成となっており、広大な敷地内で国内の多様な文化を疑似体験できる。

設計を手がけた建築家らは実際にスペイン全土の村々を巡り、その土地特有のデザインや街並みを詳細に調査。その結果、カタルーニャ地方の邸宅やアンダルシア地方の白い壁の家々、さらにはカスティーリャ地方の広場など、地域ごとの個性が忠実に再現されている。当初は博覧会の会期終了後に解体される予定だったが、市民や観光客からの評価が非常に高かったため、現在まで保存されることになった。

村内には100以上の建物が並び、その多くが工芸職人の工房やショップとして活用されている。ガラス細工、陶器、革製品、ジュエリーといったスペインの伝統工芸の制作過程を間近で見学できるほか、実際に製品を購入することも可能。また、現代アートの展示施設であるフラン・ダウレル美術館も併設されており、パブロ・ピカソ氏やジョアン・ミロ氏、サルバドール・ダリ氏といった世界的に著名な芸術家の作品を鑑賞できる点も魅力の一つ。

夜間にはフラメンコのショーが開催されたり、レストランで各地の郷土料理を楽しめたりするなど、スペイン全土を一度に旅したような感覚を味わえる。

カタルーニャ考古学博物館(Catalan Museum of Archaeology)

1929年の万国博覧会に合わせて建設され、先史時代から西ゴート時代まで、カタルーニャ地方が辿ってきた長い歴史の変遷を体系的に学ぶことができる。

館内を巡ると目にするのは、イベリア人の独自文化や、フェニキア人・ギリシャ人・ローマ人といった地中海文明との交流を示す数々の遺物。中でもエンポリアス遺跡で発見された医神アスクレピオスの像は、ヘレニズム美術の傑作として高い評価を受けている。床面を飾るローマ時代の大型モザイク画も精緻で、当時の職人技術の高さが窺えるもの。

展示は時代順に構成されており、歴史の流れを視覚的に把握しやすいのが特徴。単に古い物を並べるだけでなく、当時の生活や社会構造がどのようであったかを論理的に提示している。スペイン、特にカタルーニャ地方の文化的なルーツに触れたいと願う旅行者にとって、極めて重要な知見が得られる場所。

五輪スポーツ博物館(Museu Olímpic i de l’Esport Joan Antoni Samaranch)

フアン・アントニオ・サマランチ・五輪スポーツ博物館は、バルセロナ五輪のメイン会場となったエリアに位置している。この博物館は、国際オリンピック委員会の会長を務めたバルセロナ出身のホアン・アントニオ・サマランチを記念して名付けられた。館内では1992年の大会の様子だけでなく、古代から現代に至るスポーツの歴史や進化を網羅的に紹介している。

展示の柱は、バルセロナ五輪当時の熱気を伝えるメモラビリアや映像資料である。開会式で放たれた伝説の火矢や、当時のメダル、競技ウェアなどが並び、当時の感動を客観的に振り返ることができる。また、夏季五輪だけでなく冬季五輪やパラリンピックについても詳しく取り上げているため、スポーツの多様な側面を学ぶ機会となる。

スポーツに特別な関心がない層にとっても、体験型エリアは楽しめる要素が強い。自分の跳躍力や走力を測定し、世界記録を保持するトップアスリートの記録と比較できるセクションがある。最新のテクノロジーを用いたシミュレーターもあり、ゲーム感覚で身体を動かしながらスポーツの科学的側面を体感できる。

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