バルセロナ郊外観光で訪れたい知られざる名所

バルセロナ郊外には中心地では味わえない歴史の重層が残る。古代遺跡中世の城近代施設まで時代を横断する名所を巡りながら街の奥行きを体感できる。

紀元前から近代の建築様式が重なる城

バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 中世の城郭建築と後世の生活空間が混在するエリア。
中世の城郭建築と後世の生活空間が混在するエリア。白い漆喰壁の建物と赤レンガの城壁が並び、背後にはカタルーニャの山々が広がる。何世紀にもわたって増改築が繰り返された結果、実用的な空間と歴史的な防壁が一体となった独特の景観を作り出している。

Castell de Castelldefels カステルデフェルス城

バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 城壁沿いに設置された円筒形の監視塔。赤砂岩とレンガで作られており、ドーム状の屋根を備えている。
城壁沿いに設置された円筒形の監視塔。赤砂岩とレンガで作られており、ドーム状の屋根を備えている。

カステルデフェルス城の最大の特徴は、紀元前から近代に至るまでの建築様式が重層的に積み重なっている点にある。
バルセロナから列車で30分ほどの距離に位置するこの城は、紀元前3世紀のイベリア人集落の遺構を土台として築かれた。最下層には古代の集落跡があり、その上にはローマ時代の建築遺構が重なる。

バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 16世紀から17世紀の防衛強化時代を象徴する赤砂岩の城門
16世紀から17世紀の防衛強化時代を象徴する赤砂岩の城門。上部には時の領主の紋章が刻まれた石板が掲げられ、堅固な石造りの壁と木製の扉が当時の面影を留めている。地中海沿岸の歴史的な防衛拠点としての重厚な構えを現在も確認できる。


10世紀にはイスラム勢力から守るためのキリスト教勢力の防衛拠点として石積みの塔が建設された。1550年には建築家フェラン・ヒラル・ボネットにより、海賊バルバリアの襲撃に備えた強固なルネサンス様式の城壁が整備された。
城の敷地内に鎮座するサンタ・マリア教会は、城郭建築の中に宗教施設が完全な形で組み込まれている点で特筆すべき構造。この教会は、さらに古いローマ時代の石材を解体して再利用しており、時代を跨いだ合理的な工法が視覚的に確認できる。

バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 10世紀の教会遺構を核に16世紀に拡張された赤砂岩の主塔
10世紀の教会遺構を核に16世紀に拡張された赤砂岩の主塔。土台には古い時代の自然石が残り、上部には銃眼を備えた控え壁が配置されている。


1897年に実業家マヌエル・ジローナ・イ・アグラフェルが私財で買い取り修復した際、当時流行していた中世リバイバルの装飾を付け加えた。そのため現在の外観には、本来の要塞機能に加え、19世紀特有のロマン主義的な意匠が融合している。

バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 19世紀から20世紀の邸宅時代に施されたと思われる青いタイル装飾
19世紀から20世紀の邸宅時代に施されたと思われる青いタイル装飾。テラコッタの床と幾何学的なタイルが配置された壁面は、スペインの伝統的な意匠を反映している。かつての軍事的な緊張感とは異なる、居住性を重視した装飾的な空間が保たれている。
バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 経年により剥出した壁面から見える19世紀頃のセラミックタイル
経年により剥出した壁面から見える19世紀頃のセラミックタイル。白地に青い模様が描かれた伝統的な意匠であり、漆喰の下に隠れていた装飾技法を直接観察できる。城が辿ってきた長い修復と装飾の歴史を物語る興味深い細部となっている。


海賊の歴史をテーマにした体験型展示があり、最新の映像技術を用いた視覚的な演出が中心のため、スペイン語が分からなくても当時の海上戦や略奪の脅威を直感的に把握できる。

バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 18世紀以降の改修を経て整えられた庭園と城壁の光景
18世紀以降の改修を経て整えられた庭園と城壁の光景。低い石造りの壁が続き、背後には松やヤシの木といった現地の樹木が並ぶ。
バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 1830年製のワイン圧搾機がかつてこの場所で稼働していたことを示す銘板
1830年製のワイン圧搾機がかつてこの場所で稼働していたことを示す銘板。4言語で名称が記されており、19世紀当時、城が軍事拠点としてだけでなく農産物の加工場としても機能していた経済的な側面を裏付ける貴重な歴史的証言となっている。
バルセロナ(Barcelona)カステルデフェルス城(Castell de Castelldefels) 19世紀末から20世紀初頭のアールヌーヴォー期に制作されたと思われる女性の胸像
19世紀末から20世紀初頭のアールヌーヴォー期に制作されたと思われる女性の胸像。滑らかな質感の素材で繊細に造形されており、中世要塞の内部に後年持ち込まれた。城が時代と共に個人の邸宅や文化施設へと変化した過程を象徴する美術品。

カタルーニャ・ゴシック様式傑作の修道院

バルセロナ(Barcelona)カタルーニャ・ゴシック様式の傑作の修道院ペドラルベス修道院(Reial Monestir de Santa Maria de Pedralbes)
修道院内部にある食堂として使われていた空間。天井は尖頭アーチ状の石造りで、非常に高い開放感がある。木の柵や質素な調度品が当時の禁欲的な暮らしを象徴しており、装飾を抑えた石壁の質感が中世ヨーロッパの修道院らしい厳かな雰囲気を作り出している。

ペドラルベス修道院(Reial Monestir de Santa Maria de Pedralbes)

バルセロナの山手に位置するペドラルベス修道院は、1326年にアラゴン王ジャウマ・2世とその王妃エリスエンダ・デ・モンカダによって創建された。
カタルーニャ・ゴシック様式の傑作として知られ、世界最大級とされる3層構造のゴシック様式回廊がある。
もともとはクララ会修道女のための施設として建てられたが、王妃エリスエンダは夫の死後、自ら建設させたこの修道院の隣に宮殿を築き、亡くなるまでの25年間をここで過ごした。

バルセロナ(Barcelona)ペドラルベス修道院(Reial Monestir de Santa Maria de Pedralbes)回廊の通路部分は広々としており、床には素焼きのタイルが敷き詰められている
回廊の通路部分は広々としており、床には素焼きのタイルが敷き詰められている。天井は木製の梁が露出した構造で、石の壁面との素材感の違いが楽しめる。長い通路に沿って並ぶアーチの連続性が奥行きを感じさせ、建築物としての構造美を間近で観察できる。
バルセロナ(Barcelona)ペドラルベス修道院(Reial Monestir de Santa Maria de Pedralbes)回廊の柱の間から中庭を眺めた風景
回廊の柱の間から中庭を眺めた風景。柱とアーチは砂岩で作られており、繊細な彫刻が施された柱頭を確認できる。庭には糸杉などの植物が配置され、石のベージュ色と樹木の緑色の対比が美しい。外部の喧騒から完全に隔離された静寂な空間が維持されている。

バルセロナ中心部の喧騒から離れた静寂な環境で、14世紀から続く修道生活の痕跡を色濃く残す建築美を堪能できる。特にサン・ミケル礼拝堂に描かれたフェレール・バッサによるイタリア絵画の影響を受けた壁画や、当時の修道女たちが使用していた薬局や台所などの生活空間が保存されており、中世の日常を視覚的に追体験できる点が大きな魅力となる。

バルセロナ(Barcelona)ペドラルベス修道院(Reial Monestir de Santa Maria de Pedralbes)敷地内にある石造りの大きなアーチ越しにバルセロナの街並みを望むことができる
敷地内にある石造りの大きなアーチ越しにバルセロナの街並みを望むことができる。手前の壁は不揃いな石を積み上げた堅牢な造りになっており、歴史的な建造物と遠くに見える近代的なビルのコントラストが印象的。修道院が小高い丘の上に位置していることが分かる。
バルセロナ(Barcelona)ペドラルベス修道院(Reial Monestir de Santa Maria de Pedralbes)修道院の周辺に続く石畳の坂道
修道院の周辺に続く石畳の坂道。建物は温かみのある砂岩で構築されており、壁面には歴史を感じさせる風化の跡が見られる。路面は凹凸のある石材で舗装され、周囲の古い建築物と調和した中世の街並みが保存されている。観光客が少なく落ち着いて散策できる。

荒廃した美しさが魅力(?)怖くて入れなかった城

バルセロナ近郊に位置するトッレ・サルバナは、10世紀頃に防衛用の監視塔として建設された。中世には周辺一帯を支配した貴族セルベリョ・家の拠点の一つとしての役割を担い、石積みの基礎部分には当時のオリジナル構造が残っている。城と称されることもあるが、実態は小規模な防衛塔を備えた邸宅に近い。19世紀以降、近隣の工業集落コロニア・グエルが発展する一方でこの建物は役割を失い、次第に廃墟へと姿を変えた。

バルセロナ(Barcelona)トッレ・サルバナ(Torre Salvana)

トッレ・サルバナ(Torre Salvana)

地獄の城と呼ばれる都市伝説

地元では「地獄の城」という異名で広く知られ、カタルーニャ地方有数の心霊スポットとして若者や探検家の関心を集めている。夜になると塔の上に人影が現れるといった目撃談が絶えず、怪談や都市伝説の舞台として定着した。その独特な佇まいから、映画のロケ地やホラー写真の撮影候補として話題に上ることもある。公式な観光地ではないため案内板や周辺整備は皆無だが、廃墟愛好家の間では屈指の雰囲気を持つ遺跡として評価されている。

バルセロナ(Barcelona)トッレ・サルバナ(Torre Salvana)地獄の城と呼ばれる都市伝説

訪問時の注意点

建物の内外には無数の落書きが施され、崩壊が進んだ危険な状態にある。安全確保のための措置は講じられておらず、合法的に見学できる範囲は外観のみに限られる。整備された観光名所とは異なる荒廃した美しさが魅力だが、立ち入りの際は自己責任となる点に留意が必要。

近代モダニズム建築の水道施設

バルセロナ(Barcelona)カーサ・デ・ライグア(Casa de l'aigua)

カーサ・デ・ライグア(Casa de l’aigua)

バルセロナ北部に位置するカーサ・デ・ライグアは、1917年頃に完成した近代モダニズム建築の水道施設。かつてバルセロナの公共給水システムにおいて重要な役割を担っていた。この施設が建設された直接の背景には、1914年に発生したチフスの大流行がある。当時の汚染水が原因で多くの犠牲者が出たことを受け、安全な水を供給するために最新の衛生管理施設として整備された。

工業用施設でありながら、当時のカタルーニャ地方で流行していたモデルニスモ様式が取り入れられている点に大きな特徴がある。レンガ造りの外壁や細やかな装飾が施された美しい外観は、実用性と芸術性を両立させた当時の建築思想を象徴する。現在は文化施設として再利用されており、誰でも無料で見学が可能。

最大の見どころは、トリニタ・ベリ地区とトリニタ・ノバ地区を地下で結ぶ全長約300メートルの巨大な点検用ギャラリー。この地下通路は現在も歩くことができ、当時の高度な土木技術を肌で感じられる貴重な空間となっている。観光の中心地からは少し離れるものの、歴史的背景と建築美を同時に体感できる穴場スポットといえる。

6000年前の新石器時代に掘削された鉱山の遺構

ガバ炭鉱考古学公園(Parc Arqueològic Mines de Gavà)

ガバ炭鉱考古学公園はバルセロナ近郊のガバ市に位置し、約6000年前の新石器時代に掘削されたガバ鉱山の遺構を保存、公開する施設。この遺跡はヨーロッパ最古の坑道掘り鉱山として知られ、古代の人々が装飾品の材料となる緑色の貴石、バリサイトを採掘していた現場を直接目にすることができる。

広大な地下遺構は現在のガバ市の住宅街の直下にまで及んでいるが、その一部を体験型ミュージアムとして整備したのがこの公園。地上には遺構を保護するための近代的な建築物が設置されており、天候を気にせず見学が可能。一見すると現代的な建物だが、一歩足を踏み入れると外観からは想像がつかないほど広大でリアルな新石器時代の坑道が足元に広がっている。

発掘された当時のままの姿で残る坑道を歩き、古代の採掘技術や当時の生活様式を学べる点は、歴史ファンのみならず知的好奇心をくすぐる貴重な体験となる。バルセロナ中心部からのアクセスも良く、観光の選択肢として検討する価値がある。地上の日常風景と地下に眠る数千年前の歴史的空間とのコントラストは、この場所ならではの魅力といえる。

バルセロナ(Barcelona)ガバ炭鉱考古学公園(Parc Arqueològic Mines de Gavà)
ガバ炭鉱考古学公園(Parc Arqueològic Mines de Gavà)の入り口。赤い錆色のような外壁は、この施設の特徴的な現代的デザインとなっている。
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