一人の収集が博物館を生んだバルセロナ自然科学博物館

バルセロナには、個人の熱狂的な収集癖や情熱が結実して一般公開に至った博物館や美術館が非常に多く存在する。これは、19世紀末から20世紀初頭にかけてバルセロナの経済を支えた実業家たちが、自身の富を文化遺産の保護や芸術支援に注ぎ込んだ歴史的背景があるためだ。
当時のバルセロナの富裕層にとって、芸術支援や文化保護は単なる流行を超えた「ステータス」であり「義務」でもあった。

バルセロナ自然科学博物館の起源も、フランセスク・マルトレル・イ・ペナ氏が自身のコレクションと邸宅を市に遺贈したことにある。彼のようなコレクターの存在が、都市の文化的豊かさを形作ってきた。

バルセロナ自然科学博物館(Museu de Ciències Naturals de Barcelona)

バルセロナ自然科学博物館は、140年以上の歴史を持つ欧州屈指の学術機関である。その活動は単なる標本の展示に留まらず、地中海地域における自然科学の研究および普及において重要な役割を担っている。

博物館での大規模な展示がどのように作られていくか、その舞台裏を見ることができる。

寄贈から始まった140年の学術史

博物館の歴史は1882年、自然主義者のフランセスク・マルトレル・ペーニャが、自身の収集した考古学および自然史コレクションをバルセロナ市に寄贈したことに端を発する。創立当初の博物館は、地質学、考古学、植物学、動物学など多岐にわたる分野を包括していたが、研究の進展に伴いコレクションの性質ごとに分離・再編が行われてきた。

バルセロナ自然科学博物館(Museu de Ciències Naturals de Barcelona) フランセスク・マルトレル・ペーニャ(Francesc Martorell i Peña)。
私的コレクションを丸ごと都市に差し出したフランセスク・マルトレル・ペーニャ(Francesc Martorell i Peña)。

1920年には、1888年の万博会場跡地に建つ「三匹のドラゴンの城(Castell dels Tres Dragons)」が動物学コレクションの展示場として運用開始された。その後、2008年に歴史的植物園が統合され、2011年にはフォーラム地区の建物に現在の新博物館がオープンした。

所蔵数は300万点以上に及び、その規模はスペイン国内でも突出している。特に19世紀後半から20世紀初頭に収集された標本群には、当時のスペイン植民地であったアフリカ地域などから持ち込まれたものが多く含まれる。これらのコレクションは、当時の科学的探究心と国家的な背景を反映した貴重な学術資産となっている。

地球の変遷と現状を示す3つのセクション

展示構成は、時間の流れと生命の多様性を軸とした3つのセクションに分かれている。

「地球の歴史(Biography of the Earth)」地球の形成から生命の進化まで

「地球の歴史(Biography of the Earth)」のセクションでは、約45億年前の地球誕生から現代に至るまでの過程を扱う。惑星としての形成、海と大気の発生、そして生命の誕生から現在までの進化の道筋を、地質学的・生物学的な資料に基づき解説している。

「現在の地球(Earth Today)」多様な標本群による自然の提示

「現在の地球(Earth Today)」は、博物館が誇る300万点の所蔵品の中から、動物、植物、菌類、鉱物、化石を系統立てて紹介するセクションである。ここでは地中海圏の生態系を中心に、地球上の多様な生命体と物質の構造を一覧できる構成となっている。

バルセロナ自然科学博物館(Museu de Ciències Naturals de Barcelona) 「現在の地球(Earth Today)」多様な標本群による自然の提示
ワイヤーで吊るされた無数の貝殻の展示。アンモナイトのような螺旋構造を持つものから、鮮やかな色彩の二枚貝まで多岐にわたる。
バルセロナ自然科学博物館(Museu de Ciències Naturals de Barcelona) 棚に陳列された鉱石や結晶の数々
棚に陳列された鉱石や結晶の数々。地学的なプロセスを経て生成された天然の造形物であり、その組成や硬度、産地が詳しく記されている。
バルセロナ自然科学博物館(Museu de Ciències Naturals de Barcelona) キノコをはじめとする菌類の模型または標本
キノコをはじめとする菌類の模型または標本。湿り気や質感まで再現されており、自然界における分解者の役割を学ぶことができる。
バルセロナ自然科学博物館(Museu de Ciències Naturals de Barcelona) 整然と並べられた蝶の標本コレクション
整然と並べられた蝶の標本コレクション。羽の模様や大きさによって分類されており、自然界が持つ多様なデザインを一度に観察できる。

科学的視点を深めるテーマ展示

「サイエンス・アイランド(Islands of Science)」は、特定の学術的テーマや現代的な課題に焦点を当てたセクションである。自然科学における発見のプロセスや、環境問題に対する科学的アプローチなど、より専門的かつ教育的な視点からの展示が行われている。

バルセロナ自然科学博物館は、過去の膨大な蓄積を維持しながら、常に最新の科学的知見を市民に提示し続ける場となっている。

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