サンティアゴ・デ・コンポステーラ3日目その1。
1873年開業のアバストス市場は、大聖堂の次に観光客が多いと言われている。カメノテやアカザエビが並ぶ鮮魚コーナーを眺め、大学の自然史博物館では1メートルのスズメバチ風オブジェと対峙した。どちらも入場料は無料か格安で、雨の日の時間つぶしとして優秀な部類に入る。

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自分の忘備録、旅のしおり感覚で綴ります。
サンティアゴは年間降水量が約1,800mmに達し、スペインの中で最も雨の多い都市のひとつ。この数字はロンドン(約600mm)の3倍に相当する。石畳が雨に濡れると光を反射するのは花崗岩の特性で、整備された観光地の演出ではなく単に石の性質。
濡れた石畳に街路灯の光が反射し、古都の風情を一層引き立てる。そんなしっとりとした雨が絵になる通りを、傘をさしながらアバストス市場へ歩いていく。
ガリシアの食材が一堂に会する市場。カメノテの存在感が突出している
アバストス市場

ガリシア地方の食材が並ぶアバストス市場(Mercado de Abastos)は、大聖堂に次いで2番目に観光客が多いと言われている。1873年に開業し、現在でも地元民や観光客に親しまれている。
ガリシアのリアス式海岸はプランクトンが豊富で、タコ・イカ・カメノテなど軟体動物の漁獲量がスペイン全体でトップクラス。カメノテ(Percebes)は岩場に張り付く甲殻類で、採取に危険を伴うため価格が高く、地元では高級食材として扱われる。
観光客はまばらだが、見ているだけでも楽しく、購入した食材を調理してくれるレストランやバーもあるため、地元の食文化を堪能するにはぴったりの場所だ。

アバストス市場で手に入るもの。全部買って帰れないのが問題
- 魚介類: リアス式海岸に恵まれたガリシア地方は、新鮮な魚介類の宝庫。市場では、タコ、イカ、貝類、カニ、アカザエビ、アンコウ、サメなど、多種多様な海の幸が並ぶ。特に「ペルセベス(カメノテ)」は、この地方ならではの珍味として有名。
- 肉類: ガリシア産の高品質な牛肉をはじめ、豚肉、鶏肉、自家製のチョリソやハムなども豊富にある。
- チーズ: ガリシアは乳製品の生産も盛んで、特に「テティージャ(Tetilla)」や「アルスーア・ウジョア(Arzúa-Ulloa)」といった地元産のチーズも有名。
- 野菜・果物: 新鮮で色とりどりの野菜や果物が並ぶ。「パドロン・ペッパー(Pimientos de Padrón)」は、炒めて塩を振って食べるガリシアの代表的な一品。
- ワイン・リキュール: アルバリーニョ(Albariño)など、地元産の白ワインや、ブドウの搾りかすから造られる蒸留酒「オルホ(Orujo)」も見つけることができる。
入って最初にキリストとコウノトリが目に入る博物館
自然史博物館
サンティアゴ・デ・コンポステーラ大学自然史博物館(Museo de Historia Natural da Universidade de Santiago de Compostela)は、学術的価値と市民への開かれた姿勢を併せ持つ施設として、地域に根差した独自の魅力を放っている。その始まりは1840年、大学教育の一環として設けられた「自然史キャビネット」に遡り、1906年に正式に博物館として発展した。2014年には現在のVista Alegre公園内に移転し、研究・教育・普及を柱とする現代的な博物館へと生まれ変わっている。
展示内容は、動物学・植物学・地質学を中心に幅広く、特に貝類をはじめとする無脊椎動物のタイプ標本を多数所蔵している点はスペイン国内でも貴重。さらに、ガリシアの自然環境を再現した展示や、実物大の土壌断面模型を用いた「土」の展示室など、訪れる人に生態系の複雑さや多様性を体感させる工夫が随所に見られる。単なる標本の陳列にとどまらず、自然と人間の関わりを深く理解させる構成になっているのが特徴。
建物そのものも大きな魅力の一つで、著名な建築家チェサール・ポルテラによって設計された。木材とガラスを巧みに組み合わせ、周囲の公園と調和するデザインは、自然史博物館にふさわしい「軽やかさ」と「透明感」を演出している。内部は柔らかな光に満ち、展示物の保存と鑑賞の両立が考慮され、将来的な拡張にも対応できる柔軟性を備えている。
このように同館は、過去の教育的役割を継承しつつ、最新の科学知識と展示手法を融合させた場として、訪れる人に自然の奥深さを伝えている。美しい建築空間の中で、ガリシアの生態系や地球の多様性を実感できる体験は、観光客だけでなく地元の人々にとっても学びと発見の宝庫といえるだろう。
博物館の前に公園を歩く。ゴッホ風プラタナスが待っている
サンティアゴ・デ・コンポステーラのビスタ・アレグレ公園(Parque de Vista Alegre)は、歴史と現代が融合したユニークな都市公園。18世紀末の修道院の庭園にルーツを持ち、20世紀初頭には銀行家シメオン家の私有地となり、邸宅庭園として整備された。
その後、市に譲渡され、建築家磯崎新とポルテラによる再生計画を経て、2003年に開園。広大な敷地には歴史ある樹木が残り、散策路や広場が整備され、市民の憩いの場となっている。
園内には、ポルテラ設計の自然史博物館や高等音楽学校など、先進的なデザインの文化・学術施設が点在。歴史的建造物と現代建築、豊かな自然が調和するこの公園は、散策や文化探求の場として多くの人々を魅了している。

プラタナス(スズカケノキ属)は樹皮が剥がれ落ちる特性があり、剥がれた後に白・灰・黄緑の斑紋が残る。ゴッホが描いたアルルのプラタナス並木はこの模様を印象的に捉えたもので、確かに構図として一致している。


1903年建造のCasa Europaはカリブ海様式の折衷建築。19世紀末〜20世紀初頭のガリシアではキューバやアルゼンチンへの出稼ぎ移民(インディアノ)が富を持ち帰り、南米・カリブ風の意匠を取り入れた建物を建てる文化があった。この建物もその流れを汲む一例。1999年にセサル・ポルテラが修復。
森の中に突然ガラス張りの建物が出現する。迷子感は特にない

2014年にVista Alegre公園内に移転した博物館の設計はセサル・ポルテラが担当。木材とガラスを組み合わせた構造は、隣接する歴史的な森と視覚的に連続するよう計算されている。石造りの建物が多い旧市街とは対照的な素材選択で、あえて対比させる意図がある。

コウノトリはキリスト教圏では「新しい命をもたらす鳥」として象徴的な意味を持つ。一方でガリシアのケルト系神話では幸運と再生の鳥とされており、自然史博物館という文脈でこの組み合わせが置かれている理由は複数の解釈が成立する。

きのこコーナー。


チョウの標本展示は19世紀の自然史博物館の定番で、博物学的コレクションの象徴とも言える。ガリシアはスペイン国内でも植物相・昆虫相が多様な地域で、大西洋性気候と山地・沿岸の多様な環境が昆虫の種多様性を支えている。


鳥の巣コーナー。

50cmくらいあるタマムシ風オブジェ。タマムシ(Chrysochroa)はアジア・アフリカに分布する甲虫で、金属光沢の翅が特徴。スペインにはタマムシ科の近縁種(Buprestidae科)が生息しており、この造形物は恐らくそれをモデルにしている。実物の10倍以上の大きさで作られているため、普段見落としがちな昆虫の構造が分かりやすい。

1mくらいあるスズメバチ風オブジェ。ヨーロッパオオスズメバチ(Vespa crabro)はスペインにも生息し、ガリシアの森林地帯では巣を作ることがある。体長は最大4cm程度だが、このオブジェは実物の約25倍のスケール。蜂の複眼・腹部の節・翅の脈絡など、拡大することで普段は見えない構造が観察できる。

天井には亀たち。天井展示は来場者が上を向かないと気づかない配置で、博物館としては珍しい演出。亀は爬虫類の中でも最も長寿な生物群のひとつで、一部の種は150年以上生きる。ガリシアの在来種にはヨーロッパヌマガメ(Emys orbicularis)がいる。

アフリカクロトキの標本。

鉱物コーナー。

栗きんとんのようなサルファー(硫黄) 。硫黄は火山活動で形成される鉱物で、鮮やかな黄色が特徴。ガリシアに火山はないが、スペイン南部(カナリア諸島)からの標本が多くの博物館に収蔵されている。

茶葉のようなトルマリン。トルマリン(電気石)はホウ素を含む複合ケイ酸塩鉱物で、ガリシアの花崗岩地帯では比較的産出が多い鉱物のひとつ。圧電性・焦電性を持ち、現代では電子部品の材料としても使われる。

卵の化石感ハンパないセプタリア。セプタリアは堆積物の中で形成されたコンクリーション(団塊)が乾燥・収縮してひび割れ、そこに方解石や鉱物が充填したもの。割ると亀甲模様が現れることから「亀石」とも呼ばれる。見た目が卵に似ているのは球状に成長した団塊の形状のため。

建築家ポルテラの設計では、手すりが景観の邪魔になる場合は省略することがある。スペインの建築基準法(CTE)では一定高さ以上の階段には手すりを義務付けているが、美術館・博物館は適用除外になるケースがあり、設計の自由度が確保されている。階段には手すりが無くてもいいと思わせた逸品。


展示物が地味な分、ディスプレイを凝らしている。

トイレのレバーハンドル。縦型はありそうでないタイプ。レバー式のドアハンドルは欧州建築の標準仕様で、日本のドアノブ式より普及率が高い。縦型レバーはデザイン性を重視した建築物や公共施設でよく見られ、横型レバーより力をかけやすい設計になっている場合が多い。
本日の寄り道

日本の巡礼路である熊野古道や西国三十三所との連携を紹介するコーナーが設けられている場合があります。
これは、サンティアゴ巡礼路と日本の巡礼路が、世界の二つの主要な巡礼路として相互に協力・プロモーションを行っているため。特に、和歌山県の田辺市はサンティアゴ・デ・コンポステーラ市と観光協定を結んでおり、両方の巡礼路を歩いた人向けの特典もある。

書店にディスプレイされているトートバッグ。

旧市街以外は大体森。





























