ローマ時代研究と展示・ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum)

フランスのナルボンヌナルボヴィア博物館は、ローマ時代研究と展示を主軸とする博物館で、2021年に一般公開された施設として知られている。古代ローマ都市ナルボ マルティウスの遺産を体系的に紹介する拠点であり、発掘資料の保存と研究成果の公開を同時に担う点に特徴がある。展示空間は単なる遺物の陳列ではなく、都市計画、交通網、経済活動といったローマ都市の構造を理解しやすい構成が意識されている。ローマ帝国の属州運営を具体例から読み取れる点が評価され、地中海世界の広がりを実感できる場として位置づけられている。

ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum)


この博物館の設計は、イギリスの建築家であるノーマン・フォスターが率いるフォスター・アンド・パートナーズが手掛け、2021年に開館を迎えた。

建築の最大の特徴は、かつての中世の壁に組み込まれていた760個を超えるローマ時代の石碑を再利用した巨大な壁。この石碑の壁は、単なる展示物ではなく、建物の構造の一部として機能しており、過去と現在を物理的に繋ぐ役割を担っている。

ノーマン・フォスター事務所による設計から完成までの建設工程を記録したタイムラプス映像。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum)

ローマ時代におけるナルボマルティウスの役割

ナルボ マルティウスは紀元前118年に建設されたとされ、ガリア地方における最初期のローマ植民都市の1つと考えられている。この都市はローマとイベリア半島を結ぶ要衝に位置し、軍事的にも経済的にも重要な役割を果たした。特に街道網の整備は注目され、イタリアとヒスパニアを結ぶ移動と物流を支える拠点として機能していたと理解されている。スペインに関心を持つ読者にとって、ヒスパニア属州との結びつきは見逃せない要素であり、ローマ帝国がどのようにして半島支配を進めたのかを考える手がかりとなる。

展示に見るエピソードと裏側

ナルボヴィア博物館で象徴的とされる展示の1つに、大量の石製碑文や建築部材を壁面状に配置した空間がある。これらは長年倉庫で保管され、一般公開される機会が限られていた資料群とされる。保存と研究を優先してきた結果、展示化が遅れた経緯があり、近年になってようやく全体像が示された形になる。碑文の中には、商人や元兵士の名が刻まれたものも含まれ、都市に暮らした個人の存在を感じ取れる構成となっている。華やかさよりも情報量を重視した展示方針が貫かれている点は、この博物館の姿勢をよく表している。

フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) かつてナルボンヌの城壁に再利用されていた数千個もの墓碑や建築部材を、巨大なスチール製の棚に展示している
かつてナルボンヌの城壁に再利用されていた数千個もの墓碑や建築部材を、巨大なスチール製の棚に展示している。産業用自動倉庫のようなシステムで管理されており、研究者が個別に引き出して観察できる仕組み。これほど膨大な数の石造遺物を一堂に集めた展示壁は世界的に見ても稀有であり、圧巻の光景といえる。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 棚に置かれた遺跡をタッチパネルで選ぶと解説が表示される。
棚に置かれた遺跡をタッチパネルで選ぶと解説が表示される。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 片手を挙げたポーズをとる人物像の横には、ラテン語の銘文が刻まれている
片手を挙げたポーズをとる人物像の横には、ラテン語の銘文が刻まれている。墓碑の一部として、故人の生前の姿や名前を後世に伝える役割を担っていた。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 牛の頭部(ブクラニウム)と植物文様が彫られた建築装飾
牛の頭部(ブクラニウム)と植物文様が彫られた建築装飾。牛の頭は犠牲祭を象徴し、神殿や公共建築物のフリーズ(帯状装飾)によく用いられた意匠である。隣り合うロゼット文様とともに、古典主義建築の基本的な装飾パターンを示している。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 女性の顔を彫った石造遺物の細部
女性の顔を彫った石造遺物の細部。特に注目すべきは、編み込みやカールを複雑に組み合わせた当時の独特な髪型の表現。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 広大な展示空間に置かれた巨大な石造の梁や柱の遺構
広大な展示空間に置かれた巨大な石造の梁や柱の遺構。天井の高い館内に浮かび上がるように設置され、当時の建築のスケールを実感させる構成となっている。ノーマン・フォスターが設計した最新の博物館建築と、古代の重厚な石造遺物が融合している。

街道と港が結び付けたナルボンヌ

博物館名に含まれるViaは道を意味し、都市と道の関係が重要なテーマとして扱われている。ローマ街道は軍事移動だけでなく、交易や文化伝播にも寄与したと考えられている。ナルボンヌは内陸と地中海を結ぶ結節点にあり、陸路と海路の双方を活用できる立地が都市発展を支えた。展示では港湾施設や船舶関連遺物も紹介され、地中海交易の実態が具体的に示されている。イベリア半島産のワインやオリーブ油がこの地を経由した可能性にも触れられ、スペイン史と地続きの話題として理解しやすい構成となっている。

フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 左側の石碑には浮き彫りが施されており、当時の人々の信仰心や社会的な地位を示している
左側の石碑には浮き彫りが施されており、当時の人々の信仰心や社会的な地位を示している。右側のアンフォラは球に近い独特な形状をしており、特定の地域や特定の産物を運ぶために特化したものと考えられる。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 古代のガレー船を再現した大型の模型
古代のガレー船を再現した大型の模型。船首には白鳥を模した装飾が施されており、当時の造船技術と美意識の両面を確認できる。背景の壁画とともに、かつて地中海有数の港湾都市として栄えたナルボ・シャルボ(現在のナルボンヌ)の活気ある様子を視覚的に伝えている。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) キリスト教の初期の場面を浮き彫りにした石棺の断片。
キリスト教の初期の場面を浮き彫りにした石棺の断片。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 古代ローマ時代の建築物の一部であった柱頭や碑文のコレクション
古代ローマ時代の建築物の一部であった柱頭や碑文のコレクション。コリント式の意匠が施された柱頭や文字が刻まれた石板が、現代的な展示手法で配置されている。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 古代ローマ時代の輸送や貯蔵に欠かせなかったアンフォラという陶磁器の容器
古代ローマ時代の輸送や貯蔵に欠かせなかったアンフォラという陶磁器の容器。主にワインやオリーブオイル、魚醤のガルムなどを運ぶために使われた。底が尖っているのは、船の底に敷き詰めた砂に突き刺して固定するため。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) ローマ時代の肖像彫刻の頭部が並ぶ展示エリア
ローマ時代の肖像彫刻の頭部が並ぶ展示エリア。皇帝や貴族、あるいは地元の有力者をモデルにしたものと思われ、一人ひとり異なる顔立ちや表情が写実的に表現されている。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) キリスト教の主題が彫られた石棺(サルコファガス)
キリスト教の主題が彫られた石棺(サルコファガス)。側面には、聖書の場面と思われる複数の人物像が樹木のアーチの下に配置されている。初期キリスト教時代の美術様式を伝える重要な遺物であり、それまでの異教的なモチーフとの融合が見られる。
フランス(France) ナルボンヌ(Narbonne) ナルボヴィア博物館(Narbo Via museum) 植物の蔓や葉が絡み合うような文様が美しく彫られた石棺の蓋
植物の蔓や葉が絡み合うような文様が美しく彫られた石棺の蓋。石材の質感を活かしつつ、深い彫りによって立体的な装飾が施されている。

研究施設としてのナルボヴィア博物館

Narbo Via museumは観光施設であると同時に研究拠点としても機能している。敷地内には収蔵庫や修復施設が併設され、考古学者や研究者が継続的に作業を行っているとされる。展示内容が固定されず、研究進展に応じて更新される点も特徴の1つといえる。過去を完成された物語として示すのではなく、解釈が変化し続ける対象として提示する姿勢が感じられる。ローマ帝国とスペインの関係史を立体的に理解したい読者にとって、知的関心を刺激する場所として受け止められやすい。

「ナルボンヌ(Narbonne/フランス)へ行ってみた」はこちら →

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