バルセロナにおける「産業遺産」は、18世紀後半から19世紀にかけての産業革命によって築かれた工場の建物や煙突、労働者の居住区などを指す。バルセロナは「カタルーニャのマンチェスター」と呼ばれるほど工業が盛んだったため、街の至る所にその名残が見られる。
現在は、単なる古い建物として保存するだけでなく、美術館や図書館、大学のキャンパスといった現代の公共施設へ再生(コンバージョン)されている。
これらの遺産は、当時の労働者の暮らしや経済発展の歴史を伝えるだけでなく、バルセロナ独自のモデルニスモ建築(アール・ヌーヴォー)と産業構造が融合した、世界的に見ても貴重な文化的価値を持っている。
廃墟作品化した元巨大紡績工場
バルセロナ北部のサン・アンドレウ地区に位置するファブラ・イ・コーツは、かつての巨大紡績工場を再生させた現代文化の拠点。1837年にエル・バポル・ダ・フィルとして産声を上げ、農業中心だったこの地域に産業革命の波をもたらした歴史を持つ。
ファブラ・イ・コーツ(Fabra i Coats)

1911年頃には1600人の従業員を抱え、その80パーセントを女性労働者が占めるなど地域の雇用を一手に引き受けていた。全盛期には3000人以上が働く糸の帝国として君臨し、敷地内には発電所や学校、労働者住宅まで完備された一つの町のような機能を備えていた。しかし1970年代以降の安価な海外製品の流入に抗えず、2005年に工場としての幕を閉じた。

その後バルセロナ市が敷地を買収し、創造の工場プロジェクトとして再始動。現在は現代美術館や音楽学校、芸術家のレジデンス、公立学校が共存する多機能な空間へと生まれ変わっている。古い赤レンガの外観を残しながら内部を近代的にリノベーションした手法は、産業建築の再利用における世界的なモデルケースとされる。観光の中心地から少し離れた場所で、バルセロナの労働の歴史と最先端の芸術文化が交差する独自の空気感に触れられる場所。重厚な建築美とクリエイティブな熱量が混ざり合う光景は、一見の価値がある。






バルセロナの産業発展を支えた織物工場が今は駐車場
パーキング・フレセール・トリンシャント(Parking Freser Trinxant)
「パーキング・フレセール・トリンシャント(Parking Freser Trinxant)」の建物は、かつて「Can Trinxant(カン・トリンシャント)」として知られたテキスタイル工場(織物工場)だった。
19世紀から20世紀にかけてバルセロナの産業発展を支えた重要な工場の一つであり、トリンシャント家が所有するテキスタイル関連の産業施設として機能していた。
現在の駐車場としての利用は、かつての広大な工場跡地や建物を再活用したもので、外観の一部には当時の工業建築の面影(レンガ造りの特徴など)が残されている。
この建物がある「エル・カンプ・デ・ラルパ・ダル・クロット(El Camp de l’Arpa del Clot)」界隈は、かつて多くの工場が立ち並んでいた地域だが、都市開発によりその多くが姿を消した。

現在、この建物はバルセロナ市の「建築遺産(Patrimoni Arquitectònic)」の一部として保護の対象となっており、単なる駐車場ではなく、地域の産業史を伝える歴史的建造物として認識されている。
元労働者階級エリアの産業遺産再利用の成功例
19世紀後半から20世紀初頭にかけてバルセロナが急速に工業都市として発展した時期に建設された、テキスタイル(繊維)工場。
当時、サン・マルティ地区は「カタルーニャのマンチェスター」と呼ばれるほど工場が密集しており、この建物もその巨大な工業地帯の一翼を担っていた。
Fàbrica Costa Font(旧Costa Font工場、正式にはBonaventura Costa Font)
設計は、バルセロナのシウタデリャ公園なども手がけた著名な建築家Josep Fontserè i Mestre(ジョゼップ・フォンツェレ・イ・メストレ)。
典型的な19世紀の産業建築様式を採用しており、レンガ造りの外壁が特徴。内部は広い空間を確保するために鉄製の柱が使われており、機能性を重視した造りになってる。

この建物がある「El Camp de l’Arpa del Clot」は、かつての労働者階級の街並みが残るエリアで、近年はこの工場のような古い建物をリノベーションしたおしゃれな空間が増えており、伝統的な雰囲気とモダンな生活が共存する魅力的な地区となっている。
現在、この建物はもはや工場としては機能していないが、バルセロナにおける「産業遺産の再利用(コンバージョン)」の成功例として知られている。















