バルセロナ郊外には中心地では味わえない歴史の重層が残る。古代遺跡中世の城近代施設まで時代を横断する名所を巡りながら街の奥行きを体感できる。
紀元前から近代の建築様式が重なる城

Castell de Castelldefels カステルデフェルス城

カステルデフェルス城の最大の特徴は、紀元前から近代に至るまでの建築様式が重層的に積み重なっている点にある。
バルセロナから列車で30分ほどの距離に位置するこの城は、紀元前3世紀のイベリア人集落の遺構を土台として築かれた。最下層には古代の集落跡があり、その上にはローマ時代の建築遺構が重なる。

10世紀にはイスラム勢力から守るためのキリスト教勢力の防衛拠点として石積みの塔が建設された。1550年には建築家フェラン・ヒラル・ボネットにより、海賊バルバリアの襲撃に備えた強固なルネサンス様式の城壁が整備された。
城の敷地内に鎮座するサンタ・マリア教会は、城郭建築の中に宗教施設が完全な形で組み込まれている点で特筆すべき構造。この教会は、さらに古いローマ時代の石材を解体して再利用しており、時代を跨いだ合理的な工法が視覚的に確認できる。

1897年に実業家マヌエル・ジローナ・イ・アグラフェルが私財で買い取り修復した際、当時流行していた中世リバイバルの装飾を付け加えた。そのため現在の外観には、本来の要塞機能に加え、19世紀特有のロマン主義的な意匠が融合している。


海賊の歴史をテーマにした体験型展示があり、最新の映像技術を用いた視覚的な演出が中心のため、スペイン語が分からなくても当時の海上戦や略奪の脅威を直感的に把握できる。



カタルーニャ・ゴシック様式傑作の修道院

ペドラルベス修道院(Reial Monestir de Santa Maria de Pedralbes)
バルセロナの山手に位置するペドラルベス修道院は、1326年にアラゴン王ジャウマ・2世とその王妃エリスエンダ・デ・モンカダによって創建された。
カタルーニャ・ゴシック様式の傑作として知られ、世界最大級とされる3層構造のゴシック様式回廊がある。
もともとはクララ会修道女のための施設として建てられたが、王妃エリスエンダは夫の死後、自ら建設させたこの修道院の隣に宮殿を築き、亡くなるまでの25年間をここで過ごした。


バルセロナ中心部の喧騒から離れた静寂な環境で、14世紀から続く修道生活の痕跡を色濃く残す建築美を堪能できる。特にサン・ミケル礼拝堂に描かれたフェレール・バッサによるイタリア絵画の影響を受けた壁画や、当時の修道女たちが使用していた薬局や台所などの生活空間が保存されており、中世の日常を視覚的に追体験できる点が大きな魅力となる。


荒廃した美しさが魅力(?)怖くて入れなかった城
バルセロナ近郊に位置するトッレ・サルバナは、10世紀頃に防衛用の監視塔として建設された。中世には周辺一帯を支配した貴族セルベリョ・家の拠点の一つとしての役割を担い、石積みの基礎部分には当時のオリジナル構造が残っている。城と称されることもあるが、実態は小規模な防衛塔を備えた邸宅に近い。19世紀以降、近隣の工業集落コロニア・グエルが発展する一方でこの建物は役割を失い、次第に廃墟へと姿を変えた。

トッレ・サルバナ(Torre Salvana)
地獄の城と呼ばれる都市伝説
地元では「地獄の城」という異名で広く知られ、カタルーニャ地方有数の心霊スポットとして若者や探検家の関心を集めている。夜になると塔の上に人影が現れるといった目撃談が絶えず、怪談や都市伝説の舞台として定着した。その独特な佇まいから、映画のロケ地やホラー写真の撮影候補として話題に上ることもある。公式な観光地ではないため案内板や周辺整備は皆無だが、廃墟愛好家の間では屈指の雰囲気を持つ遺跡として評価されている。

訪問時の注意点
建物の内外には無数の落書きが施され、崩壊が進んだ危険な状態にある。安全確保のための措置は講じられておらず、合法的に見学できる範囲は外観のみに限られる。整備された観光名所とは異なる荒廃した美しさが魅力だが、立ち入りの際は自己責任となる点に留意が必要。
近代モダニズム建築の水道施設

カーサ・デ・ライグア(Casa de l’aigua)
バルセロナ北部に位置するカーサ・デ・ライグアは、1917年頃に完成した近代モダニズム建築の水道施設。かつてバルセロナの公共給水システムにおいて重要な役割を担っていた。この施設が建設された直接の背景には、1914年に発生したチフスの大流行がある。当時の汚染水が原因で多くの犠牲者が出たことを受け、安全な水を供給するために最新の衛生管理施設として整備された。
工業用施設でありながら、当時のカタルーニャ地方で流行していたモデルニスモ様式が取り入れられている点に大きな特徴がある。レンガ造りの外壁や細やかな装飾が施された美しい外観は、実用性と芸術性を両立させた当時の建築思想を象徴する。現在は文化施設として再利用されており、誰でも無料で見学が可能。
最大の見どころは、トリニタ・ベリ地区とトリニタ・ノバ地区を地下で結ぶ全長約300メートルの巨大な点検用ギャラリー。この地下通路は現在も歩くことができ、当時の高度な土木技術を肌で感じられる貴重な空間となっている。観光の中心地からは少し離れるものの、歴史的背景と建築美を同時に体感できる穴場スポットといえる。
6000年前の新石器時代に掘削された鉱山の遺構
ガバ炭鉱考古学公園(Parc Arqueològic Mines de Gavà)
ガバ炭鉱考古学公園はバルセロナ近郊のガバ市に位置し、約6000年前の新石器時代に掘削されたガバ鉱山の遺構を保存、公開する施設。この遺跡はヨーロッパ最古の坑道掘り鉱山として知られ、古代の人々が装飾品の材料となる緑色の貴石、バリサイトを採掘していた現場を直接目にすることができる。
広大な地下遺構は現在のガバ市の住宅街の直下にまで及んでいるが、その一部を体験型ミュージアムとして整備したのがこの公園。地上には遺構を保護するための近代的な建築物が設置されており、天候を気にせず見学が可能。一見すると現代的な建物だが、一歩足を踏み入れると外観からは想像がつかないほど広大でリアルな新石器時代の坑道が足元に広がっている。
発掘された当時のままの姿で残る坑道を歩き、古代の採掘技術や当時の生活様式を学べる点は、歴史ファンのみならず知的好奇心をくすぐる貴重な体験となる。バルセロナ中心部からのアクセスも良く、観光の選択肢として検討する価値がある。地上の日常風景と地下に眠る数千年前の歴史的空間とのコントラストは、この場所ならではの魅力といえる。
















